キャラバン実施報告

CARABAN REPORT

福島ルート

福島〜本宮ルート キャラバン概略

メンバー:ヒューレット柳澤えり子

 
 

参加メンバー( )内はパート名
宮腰政貴(1)、木村由紀(1)、佐藤李子(1)、長谷川夕(2)、吉田弘子(2)、ヒューレット柳澤えり子(2)、高橋明(2)、上條さち子(3)、高木麻里(3)、竹上盛大(3)、渡辺一騎(3)、前嶋淳(4)、藤原佳子(4)

 
コースと参加者
 福島・本宮コースは、飯坂支所・学習センター、中央町会 下野寺公会堂、認定こども園・白百合幼稚園、JR本宮駅の四か所にて演奏を行ないました。このルートでは 中部地方から7名、関東地方から3名、東北地方から3名の合計13名の演奏者(女性8名、男性5名)と、写真撮影などのサポート役1名の合計14名が素晴らしい1日をともに過ごしました。演奏者13名のうち、3回以上のキャラバン経験者が2名、2回目が2名、初参加が9名でした。グループの統轄は、仙台から参加された前嶋淳先生(中トップ奏者、元仙台フィルハーモニー管弦楽団チェロ奏者、4パート)、演奏のリードとメロディの演奏は岐阜県から参加された宮腰政貴さん(1パート)、助言者は 2015年に仙台で行なわれた大規模なチェロ・コンサートの副統括を務めた高橋明さんが担当してくださいました。
 グループリーダーの仙台在住の実行委員、高橋広さんはご都合により当日参加なされませんでしたが、福島・本宮コースのオンライン打ち合わせをはじめとし、キャラバンコンサートがスムーズに行なわれるように綿密な準備を整えてくださいました。高橋さん、ありがとうございました。
     さて、キャラバン参加の感想を簡潔に述べると、「前日の500人チェロでも感激していましたが、翌日のキャラバンは、その体験が吹っ飛んでしまうかと思えるほどの感動体験だった」と言えるでしょう。以下がそのご報告です。
 
①飯坂支所・学習センター 9:30−10:30
 

 青天の下、ターコイズブルーの生地に花一杯のチェロが描かれた、今回のコンサートオリジナルTシャツを着たチェリストたちが8:15に福島駅に集合しました。皆さん青いTシャツがとてもお似合いです。楽器と一緒にバスに乗り込み、9時半開演の飯坂支所・学習センターには9時に到着しました。バスを降りると会場に向かう方々のお姿がありました。演奏者はTシャツ姿でしたが、地元の皆さんは素敵に装っておられ、朝早くからコンサートを楽しみにして来てくださったことを感じました。およそ100名もの方が演奏を聴きに来てくださったことに驚き、新聞社の取材も入っているということで緊張のうちにコンサートがスタートしました。

 飯坂支所・学習センターにお集まりになった方々の中には、前日のコンサートを聴きに来てくださった方はおられないようでしたので、「昨日は午前中には福島市内でハーフマラソンが行なわれ、4,000人が走ったそうですが、実は午後にも一大イベントがありました。あづま総合運動場に全国から500人のチェロ弾きが集まってコンサートを開いたのです。今日はそのうちの約100名が7つのグループに分かれてこのようなコンサートを行なっています。小1時間演奏いたしますのでどうぞよろしくお願いいたします」との挨拶から始めました。メンバーの紹介を行ない、早速演奏に入りました。一曲目のモーツァルトの《アヴェ・ヴェルム・コルプス》は、東日本大震災でお亡くなりになった多くの方々への追悼を込めて、そして今世界で起こっている紛争が終わり、平和になるようにとの祈りを込めて弾きました。
 
 2曲目は 福島県出身の作曲家、古関裕而の人生を描いたNHK連続テレビ小説「エール」のテーマソング《星影のエール》を、集まってくださった方々への応援歌としてお届けしました。続いては、古関裕而の珠玉の5曲《スポーツショー行進曲》、《栄冠は君に輝く》、《長崎の鐘》、《とんがり帽子》、《高原列車》でしたが、前日に調べたところ、古関は生涯でなんと5,000曲余りの曲を創作したと知りました。(話が逸れて恐縮ですが、私が通った宮城県の「細倉小学校」(1991年閉校)の校歌も古関裕而の作曲です。メロディが美しく、今年90歳になる母といまでも一緒に歌うことがあるのです)
 
 次は、福島の美しい田園風景に相応しい音楽、アニメの「となりのトトロ」で歌われる《散歩》と《トトロ》を演奏しました。数名のお客様が歌で参加してくださっているのが聴こえて来ました。続いての会津地方の盆踊りの歌《会津磐梯山》を演奏していると、演奏者の緊張も緩んできました。聴きにいらした方々の表情などから喜んでいただいているのが感じられ、だんだん盛り上がって、楽しく演奏できました。同時に「福島っていいところだなあ」という思いが湧き上がって来ました。
 
    あっという間に40分ほどが経過し、いよいよ《ふるさと浪江》という演歌調の曲の演奏に入りました。原子力発電所の事故により、21,000人を超える町民が浪江町から避難せざるを得なくなりました。その中には飯坂町を新しい生活の拠点として暮らしておられる方々がおられ、「県営復興公営住宅 飯坂団地」にお住まいです。このコンサートにも復興公営住宅から多くの方が聴きにきてくださると伺っていました。
 
  《ふるさと浪江》は浪江町出身の詩人、根本昌幸さんが作詞され、同町出身の民謡歌手、原田直之さんが作曲した歌です。「ふるさと離れ遠くへ来たよ。ふるさとは良い、けれど帰れない。帰りたいな、あのふるさとへ、緑豊かな あの町へ。。。」コンサートに備えてこの曲を練習しながら歌ってみましたが、涙なくして歌うことはできません。「この歌を聴くと、浪江という町がどんなにか美しく素晴らしい町なのか、目に浮かんできます。浪江の方々のお気持ちを計り知る事はできませんが、音楽でお気持ちに寄り添いつつ演奏させていただきます」とお伝えして演奏を始めました。目を潤ませ、体を揺らしながら聴いてくださるお客様、また一緒に歌ってくださるお客様のご様子に、それぞれに思いを持って聴いてくださっているのが伝わってきて、演奏していても込み上げてくるものがありました。
 
 最後の曲となる文部省唱歌の《ふるさと》の演奏の前に、リーダーの前嶋淳先生から、皆様へのご挨拶と、チェロという楽器の魅力についての楽しいお話をいただきました。《ふるさと》の演奏は、お客様が声を合わせて一緒に歌ってくださいました。スケジュールに余裕のないキャラバンコンサートですので、アンコールは予定に組み込んでおりませんでしたが、たくさんの拍手とともに「アンコール!」と依頼された時はやはり嬉しかったです。司会者が時間を気にして躊躇していると、「最初に演奏した曲は短かったからそれで良いんじゃない?」とのお客様からのアドバイスがあり、もう一度 《アヴェ・ヴェルム・コルプス》を演奏しました。
 
 演奏終了後、50代の男性からリーダーの前嶋先生の使用している楽器についての製作年代と国について質問がありました。先生のご返答に、「とても良い音質ですね」と感想を述べられたそうです。チェロのアンサンブルを聴く機会はあまりないので、興味を持って聴きに来てくださったとのこと、お客様方の積極的なご様子に感銘を受けました。飯坂支所・学習センターの皆様とのお別れを惜しみつつも、次の会場、中央町会下野寺公会堂に向かいました。
 
②中央町会・下野寺公会堂 11:30−12:00
 
 下野寺公会堂に着くと70名ほどのお客様は皆様すでに着席しておられ、「ああ、来た来た〜!」と盛大な拍手で私たちの到着を歓迎してくださいました。我々が靴を脱いで公会堂に入る前から大変な盛り上がりで、お客様の熱量を感じ取ることができ、元気をもらいました。チェロケースを置くための控室では、コンサートの実行委員の井上弘之さんの奥様が優しい笑顔で迎えてくださいました。福島在住実行委員の井上さん、コンサート本部の新さん、齋藤さんが奔走して訪問演奏の手筈を前もって整えてくださったからこそ、このキャラバンコンサートがあることを思い起し、胸が一杯になりました。「皆さんの期待に応えなくては」と気持ちが引き締まる一瞬でした。

 中央町会・下野寺公会堂でのコンサートは、64世帯の復興住宅にお住まいの方々と近隣の町内市民が対象でした。ご近所でお互い気心の知れた方々が多くおられたからでしょうか、靴を脱いでの和風の会場は和やかな雰囲気に包まれていました。中央町会の司会者がユーモアに溢れる方で、良い気持ちで演奏に臨むことができました。
 
 曲目、曲順は飯坂と同じでしたが、飯坂でマイクの調整が思うようにいかなかったことを踏まえ、相談の上、歌のリードは諦めてチェロの演奏だけに集中することとなりました。しかし歌のある曲は自然と歌声が聴こえて来て、お客様が演奏会を楽しんでおられる様子がわかり、安堵しました。
 
 二箇所目の演奏ということで演奏する側に心の余裕ができたからでしょうか、お客様の表情、つぶやきや息づかい、口ずさまれる声を肌で感じることができ、大きな感動を受けました。被災した皆様へのエールを送るために参加していながら、「ああ来てよかった。 こちらが癒されている」と感じました。演奏が進むにつれて、特に《ふるさと浪江》では、お客様のこれまでの様々な思いが涙となってどっと溢れて来たように感じました。目を閉じてじっくりと聴いてくださり、演奏が終わった時は、「ありがとう、じーんときた。よかった。気持ちが晴れた。。。。」という笑顔の方もおいでになりました。

 
 中央町会・下野寺公会堂では、皆様《会津磐梯山》を特に楽しまれたようで、「ぜひもう一度聴きたい」というリクエストにお応えしてアンコールの曲としました。司会の方が、《会津磐梯山》のメロディパートを弾いてくださった宮腰さんと背丈が同じくらいだということで、「兄弟だ」ということになり、明るい笑いに包まれました。お客様一同が私たちに親近感を覚えてくださったのですね。私たちもこの時は楽器を片付けて、ゆっくりと皆様のお話を伺ってから次の場所に行くことができたらいいのになあ、と強く感じました。終演後には、全員『いもくり佐太郎』という福島銘菓のお土産を頂戴いたしました。美味しいお菓子ですね。出発するバスに手を振って見送ってくださった姿にも胸が熱くなりました。
 
③認定こども園・白百合幼稚園 12:3013:00
 
 白百合幼稚園では理事長先生、園長先生、担任の先生、そして可愛い、可愛い45名ほどの年長組の子どもさんが小さい椅子にお行儀よく腰をかけて、私たちの到着を待っていてくれました。好奇心旺盛の園児の澄んだ瞳に見つめられ、ドキドキしながらコンサートが始まりました。一曲目は静かな 《アヴェ・ヴェルム・コルプス》。皆さん背筋をぴんと伸ばして真剣な表情で聴いてくれて驚きました。白百合幼稚園は「スズキ・メソード」の考え方を保育理念として掲げており、保育の中をはじめ、放課後にもヴァイオリンを学んでいる児童さんも多いと伺っていますが、普段から聴く姿勢がしっかりと身に付いているのでしょう。二曲目、三曲目は《さんぽ》と《トトロ》。歌ったことのある子どもたちも多くいて、字が読める子どもたちは歌詞カードを小さな手に持って、大きい声で一緒に歌ってくれました。大人が歌う《さんぽ》も良いですけれども、子どもたちが歌ってくれると張り合いがありますね。《トトロ》の曲の終わりはだんだんゆっくり消えていくように演奏しました。トトロさんがどこかに隠れてしまったように。。。《星影のエール》を演奏する際に、朝ドラの「エール」を知っている、見たことがある、と手を挙げた児童が何人もいました。もしかしたら私たちを喜ばせるために手を挙げてくれたのかも知れませんね。スズキ・メソードで学んでおられることから、ゴセックの《ガヴォット》と、バッハの《メヌエット》を演奏しました。《ガヴォット》はお片づけをするときに流れる曲、ということで皆よく知っている曲でした。演奏が終わってから話しかけたりしてくる輝くほど可愛さの園児たちに、天使からの「エール」をいただいた気がしました。

 
 理事長先生、園長先生と言葉を交わしているうちに、あっという間にまた出発の時間が来てしまいました。次のJR本宮駅までは32kmの道のりです。車中で昼食やおやつを食べながら、席が近い方々とおしゃべりする時間もありました。演奏の回数を重ねるごとに、お互いの音をよく聴き、小編成アンサンブルの良さが味わえるようになり、演奏者同士も気心がしれ、演奏がどんどん楽しくなっていくことを感じました。お話を伺ったところ、中部地方から参加された方々は今回のコンサートのために集まって小グループで練習をされていたということでした。皆さんの演奏レベルが高く、演奏姿勢も積極的で、演奏が楽しくなるのも不思議ではありません。また同じメンバーでいつか演奏したいなあと夢を描いている間に、バスは高速道路をJR本宮駅へと走り続けます。

 
④JR本宮駅 東西自由通路ロビー 14:00―
 
 JR本宮駅では FMラジオ局『MotComもとみや』のスタッフにお世話になる、と伺っており、電話で打ち合わせをしていたのですが、私の時間の管理の仕方にミスがあり、到着の時間が予定より15分遅れ、お客様を待たせてしまいました。バスが駅のロータリーに到着すると、誰かの「わあ、あんなにいる!」との驚きの声が聞こえてドッキリ。駅の2階には人集りが。駅の構内なので、この時間帯に電車を利用する方々が立ち寄って聴いてくださるのかな、立ち見だったら人数も少ないだろうな、との私の勝手な思い込みとは裏腹に、30名はいると思われる老若男女が、暑い中通路に立って私たちの到着を待っていてくださったのです。(座る場所もちょっとはありましたが。。。) ベビーカーの赤ちゃん、お子さんもいらっしゃいます。
 
   慌てて準備をして着席してみると、お客様との距離がメチャ近いのです。アップボウだと、左のベンチにお座りの方を弓で突っついてしまいそうです。それでもお客様は一言の苦情も言わずに、私たちの演奏を食い入るように聴いてくださるのでした。本宮の皆様のなんと忍耐深いことでしょうか。皆様、「遅れてごめんなさい、そしてわざわざいらしてくださってありがとうございます」との気持ちで一生懸命演奏しました。チェロの伴奏による《ふるさと浪江》、《ふるさと》の合唱が駅の通路で響くとは夢にも思っていませんでした。FMラジオ局のパーソナリティーの方が合唱を指導しておられて、生徒さんを誘ってくださった、と後で伺いました。本宮駅でもアンコールは《会津磐梯山》。宮腰さんが奏でる力強いメロディーにのって、全身全霊を込めて演奏しました。
 
 コンサートが終わると、「私、昨日のコンサートにも行ったのよ。感動したので今日も楽しみだった」と声をかけてくれた方がおられました。そしてコンサートのプログラムに私たちのサインを求められるのでした。「遠くからやってきて元気づけてくれて本当にありがとう」、「初めてチェロの音を聴いた。ジーンときました」などたくさんのお言葉をいただきました。美しい福島の風景の写真をプレゼントしてくださった方もおられました。またお子さんがチェロを習い始めた、という方からチェロについての質問もありました。チェロを弾いている男の子と少しお話ができて楽しんでくれていたようだったので、今回のふくしまチェロの活動が、子どもたちにも引き継がれて未来に発展していくと嬉しいな、と思いました。

 浪江出身の女性からは、尊い寄付金を預かりました。「(実行委員の)齋藤さんには音楽で助けてもらいました。一緒に歌を歌って本当に助けてもらったんですよ。齋藤さんによろしく言ってくださいね」と。そして「『ふるさと浪江』の歌に振り付けをして踊り始めたのが私たちのところからです。今も一緒に踊りたいくらいでした。色んなところでこの踊りを披露したんですよ」と歌にまつわるエピソードもお話しくださいました。
 
 14名の参加者は福島に乗ってバスで戻るグループと、本宮から電車に乗って帰路に向かう2グループに分かれなくてはいけません。お別れしたくないけれど、集合写真を撮ってそれぞれの目的地へと。。。本宮から電車に乗られた方は一本遅くなってしまいましたね。ごめんなさい。またぜひ一緒に演奏したいです。ありがとうございました。お元気で〜。
 
振り返って
 
   キャラバンに行く前は「どんな方々が来てくださるのかな」、となんとなく心配していましたが、コンサートに参加してお客様の反応に触れ、「来てよかった。参加してよかった」と何度も思いました。と同時に、逆に地域の方から我慢強さや不屈の精神、元気・勇気をいただきました。短い時間でしたが生の声に触れられた本当に良い経験になりました。震災を風化させない、「忘れていませんよ、覚えていますよ」、「応援していますよ」というメッセージをこれからも送り続けられるような活動ができたら、と思います。めいっぱい演奏でお時間をいただいたため、次回はお客様とお話しをしたり、交流する時間が持てたら、さらにさらに素晴らしいキャラバンコンサートとなることでしょう。
   
 実行委員の方々には、コース設定の下見など、準備が大変だったと思いますが、他では経験できない素晴らしい企画でした。一緒に演奏した方々にも、スタッフの皆さんにも感謝感激です。心から感謝申し上げます。ありがとうございました。
 
追記
 
    報告書を書くにあたり、参加者の皆様にアンケートを送り、参加した感想、お客様の反応、お客様から頂いた感想などを回答していただきました。「このようなキャラバンコンサートに また参加してみたいです」と全員が声を揃えておっしゃっています。この報告文は参加者のお声をできるだけそのままの形で「」を付けずに引用させていただきながら、一つの声としてまとめました。
 
     今回のキャラバンで、私は司会の役を引き受けましたが、何をどのようにして良いか分からず、良き同僚でアナウンサーの佐藤知子さんにSOSを出してアドバイスをいただきました。その際、佐藤さんが2015年に仙台で行なわれたチェロ・コンサートのアナウンサーだった、ということを知りました。奇遇というか、神様の摂理というのでしょうか。「キャラバンコンサートはきっとうまくいく」とその時確信したのでした。このような素晴らしい経験をさせていただきありがとうございました。お世話になった多くの皆様、一緒に演奏をしてくださったチェリストの皆様、そして聴きに来てくださった福島の皆様に改めてお礼を申し上げます。